福岡県太宰府市の丸山病院(内科・消化器内科・循環器内科・リハビリテーション科)

2021-06-08

不整脈:電気的除細動−心房細動を中心に−

電気的除細動とは?

電気的除細動とは、強い電流(電気ショック)を流すことによって全ての心筋細胞を一気に電気的に興奮させて、バラバラになった心拍リズム(細動)をリセットして元の正常の脈に戻すことです。病院内で電気的除細動を行う時には、除細動器を使います。除細動器は、心電図モニターと電気を発生するトランスやコンデンサーを内蔵する本体と、直流電流を流すための2つのパドルからなります。

除細動器を使った電気的除細動のイメージ

除細動器を使った電気的除細動のイメージです。
出典:クリーブランド・クリニック(米国オハイオ州)のホームページより

パドルを右前胸部上方(右鎖骨の下)と、左前側胸部下方の2ヶ所に押し当て(上の図)、パドルについている通電ボタンを押して直流通電(電気ショック)を行います。パドルの代わりに、使い捨ての電極パッドを貼り付け、除細動器本体の通電ボタンを押して電気ショックを行うこともあります(下の図)。

電極パッドを使用した電気的除細動のイメージです。

電気的除細動には、致命的な頻脈性の心室性不整脈である心室細動や心室頻拍に対して緊急処置(救命処置)として行う場合と、頻脈性の心房性不整脈である心房細動や心房粗動に対する治療の一環として行う場合があります。

心室細動に対する電気的除細動

心室細動では、電気的興奮が心室の様々な部位で無秩序に発生して心室は細かく震えているだけで、通常の収縮はみられず心拍が止まっているのと同じ状態になります(心停止)。心停止(心室細動)の発生から3分で脳の障害が始まり、1分毎に救命率は7~10%低下するとされています。心室細動が起こったら、1分1秒でも早く電気的除細動を行って、元の正常の脈に戻す必要があります。

我が国では、病院外での心停止(院外心停止)が年間10万件以上発生しています。院外心停止の約60%は心臓が原因(心原性)であり、心原性心停止の60%以上は急性心筋梗塞が原因とされています。一方、急性心筋梗塞で死亡した人の過半数は発症直後に亡くなっており、直接の死因は心室細動と考えられています。心室細動のために突然倒れた人に対して、居合わせた人が直ちに電気的除細動を行うことができれば命を救うことができます。一般人が電気ショックを行うことを想定して開発されたのが、AED(Automated External Defibrillatorの略称、自動体外式除細動器)です。

心室細動・心室頻拍に対する電気的除細動については、本コラムの「心筋症」のサイドメモ「植込み型除細動器」を、AEDについては「虚血性心疾患」のサイドメモ「AEDは、心室細動の人の命を救う医療器械です」をご参照ください。

心房細動に対する電気的除細動

心房細動をすぐに止めたい時に、電気的除細動を行います

心房細動を正常の脈(洞調律)に戻す治療法には、抗不整脈薬の内服や注射などの薬物療法と、カテーテルアブレーションや電気的除細動などの非薬物療法があります。直ちに洞調律に戻す必要がない場合は、抗不整脈薬の内服やカテーテルアブレーションを行います。一方、心房細動を直ちに洞調律に戻すことが必要な場合には、抗不整脈薬の注射や電気的除細動を行います。抗不整脈薬の注射の効果は不確実なので、より早く確実に心房細動を止める必要がある場合には電気的除細動を行います。

心房細動を直ちに止めて洞調律に戻す必要があるのは、心拍数140〜150/分以上と脈が速い(頻脈性心房細動)ために血圧が下がり、めまいや脱力感などを生じて動けなくなった場合です。血圧の低下が高度でショック状態になった場合や、急性心不全のために肺水腫(強い肺うっ血のため肺が水浸しになった状態)がある場合は、治療の緊急性が高く直ちに電気的除細動を行わなければなりません。

抗不整脈薬の注射が無効で心房細動が止まらない場合も、電気的除細動を行います。抗不整脈薬の注射には、血圧低下や徐脈(脈拍数が減る)などの副作用があります。それらの弊害を避けたい場合も、電気的除細動を行います。肥大型心筋症・心アミロイドーシスや心不全がある場合は、抗不整脈薬の注射よりも電気的除細動の方が安全です。

心電図同期モードで電気ショックを行います

電気的除細動の準備ができたら、電気ショックの苦痛をとるために、1〜2分で覚める超短時間作用型の静脈麻酔薬を注射して麻酔をかけます。胸に押しあてた2つのパドルあるいは電極パッドを通して、心電図波形をモニターしながら治療を行います。電気ショックのタイミングを誤ると、心室細動が誘発されることがあります。それを防ぐため、心電図のQRS波(心室の電気信号)のタイミングに合わせて電気ショックが流れるように設定します(心電図同期モード)。

経食道心エコーで左心房内の血栓をチェックします

心房細動になると、左心房内の血流がうっ滞して血栓を生じやすくなり、その血栓が剥がれて脳動脈に詰まると大きな脳梗塞が起こります。ガイドラインでは、心房細動が発生してから48時間以内であれば、経食道心エコーを行わずに電気的除細動を行うことを認めていますが、48時間以上経っている場合は、経食道心エコーを行って左心房内の血栓をチェックすることを推奨しています。

左心房は体の後ろの方にあるので、通常の心エコー(経胸壁心エコー)では左心房内がよく見えません。一方、左心房は食道のすぐ前にあるので、食道からエコーを照らすと左心房内がよく見えます。左心房内に血栓がなければ電気的除細動を行って良いですが、血栓が見つかった場合は電気的除細動を行う前に先ず抗凝固療法を行うのが原則です。

電気的除細動前と後に行う抗凝固療法が重要です

抗凝固療法(抗凝固薬の内服)により、左心房内の血栓の発生が抑えられ、脳梗塞が予防されます。ガイドラインでは、電気的除細動を行う前の3週間と、除細動後の少なくとも4週間は、抗凝固薬を内服することを推奨しています。

ガイドラインでは、心房細動の発生から48時間以内であれば、事前の抗凝固療法なしで電気的除細動を行うことを認めています(下の図)。また前述のように、ショックや肺水腫がある場合は治療の緊急性が高いので、抗凝固療法なしで電気的除細動を優先して行います。ただし、このような場合でも、除細動前にはヘパリン(抗凝固薬)の静脈注射を行い、除細動後には抗凝固薬の内服を継続します。

電気的除細動を行う時の治療の流れ

画像は横にスクロールします。

電気的除細動を行う時の治療の流れ。
参考資料:日本循環器学会/ 日本不整脈心電図学会合同ガイドライン 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)

電気的除細動で正常の脈(洞調律)に戻った後、どのくらいの間、洞調律が維持できるかは、それぞれの患者さんの状態によって異なります。電気ショックで洞調律に戻った直後に、すぐ心房細動になることもあります。そのような場合は、抗不整脈薬をしばらく内服してから、あるいは前もって抗不整脈薬を注射した後に電気的除細動を行うと、洞調律がうまく維持できることがあります。心房細動が再発する可能性が高い場合や、血栓症のリスクが高い患者さんでは、正常脈に戻った後も抗凝固薬の内服を長期的に継続します。

参考資料

  • 日本循環器学会/ 日本不整脈心電図学会合同ガイドライン 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)

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