福岡県太宰府市の丸山医院(内科・消化器科・循環器科・リハビリテーション科)

2023-11-17

感染性心内膜炎とは?

心臓の壁は、内から外へ心内膜・心筋層・心外膜の3層構造で、心内膜は心臓の内腔面を覆う薄く平坦な結合組織の層のことです。感染性心内膜炎は、血液中に侵入した細菌が心内膜に付着することで発生します。心内膜であればどこでも起こり得ますが、ほとんどが弁、それも正常ではない弁で発生します。例えば、大動脈二尖弁などの先天異常や心臓弁膜症のために心内膜が傷付いている弁や、正常の心内膜で覆われていない人工弁は、細菌が付着しやすく感染性心内膜炎を生じやすいです。感染性心内膜炎は大動脈弁と僧帽弁に好発し、大動脈弁閉鎖不全症(AR)や僧帽弁閉鎖不全症(MR)などの逆流性心臓弁膜症の原因となります。

肺炎や胆嚢炎・腎盂腎炎など重い細菌感染症では、血液中に細菌が侵入すること(菌血症)があリます。皮膚のオデキが化膿した場合や歯肉炎(歯ぐきの炎症)など限局性の軽い細菌感染症でも、ごく少数の細菌が血液中に混入することがあります。さらに、ごく軽微な菌血症は、虫歯の治療や抜歯などの歯科処置でも一過性に発生し、歯ぐきの粘膜に傷があると歯を磨くなどの日常行為でも起こり得ます。感染性心内膜炎の原因菌の80~90%は、口の中や皮膚の常在菌*1であるレンサ球菌や黄色ブドウ球菌です。通常ならば、細菌は血液中に侵入して数分以内に免疫の働きで殲滅されるので問題ないのですが、弁の異常のため心内膜のバリアー機能が損なわれていると細菌の付着を許してしまい感染性心内膜炎が発生すると考えられています。

弁に細菌が付着すると、疣贅(ゆうぜい)という細菌の固まりができます。疣贅はもろくて崩れやすく、剥がれた疣贅の破片が動脈に詰まると様々な弊害が起こります。脳梗塞や腎梗塞・心筋梗塞を引き起こしたり、詰まった疣贅片から細菌が動脈周囲の組織に侵入して増殖すると肺炎や膿瘍(組織に膿が溜まった状態)をきたすこともあります。また、手指などの小さな動脈に疣贅片が詰まると痛みを伴う小さな紅斑を生じます。感染した弁では、早い時は数日で(急性)、あるいは数週間かけてゆっくりと(亜急性)組織破壊が進行します。その結果、弁には大きな穴が開いて高度の逆流(閉鎖不全症)を生じたり、ひどい時には弁が溶けてなくなってしまうこともあります。

感染性心内膜炎イメージ

感染性心内膜炎の心臓のイメージです。右図は、左図の四角部分を拡大したものです。大動脈弁には紐状の、僧帽弁には塊状の疣贅(細菌の固まり)が付着しています。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス(一部改変)

症状の現れ方には、心不全のために発症してから数日で生命が脅かされるような進行が早い急性心内膜炎と、数週間かけてゆっくり進行する亜急性心内膜炎があります。急性心内膜炎では、38〜39℃以上の高熱・悪寒・振戦・倦怠感・食欲不振などがみられます。さらに、ARまたはMRによる左心不全が急速に進行します。亜急性心内膜炎では特徴的な症状が少なく、倦怠感・寝汗・食欲不振・体重減少などがみられ、進行とともに心不全症状が徐々に現れます。

*1:常在菌とは、健康な人の身体にいる細菌のことです。腸内に最も多く、口腔内や皮膚表面にも棲息しています。通常は、病原性を示すことはありませんが、体力が落ちたり免疫抑制薬の長期使用などで免疫力が低下すると、病気(肺炎などの感染症)を引き起こすことがあります。乳酸菌やビフィズス菌なども常在菌の一種です。

感染性心内膜炎の診断

漠然とした症状が多いため、患者さんを前にしてすぐに感染性心内膜炎を思いつくのは容易ではありません。高齢の患者さんや亜急性心内膜炎では、さらに特徴的な症状が少ないため診断が一層難しくなります。熱はあるけどその原因がよく分からない場合、とくに感染性心内膜炎をきたしやすい高リスク患者さんでは、感染性心内膜炎を思い起こすことが肝要です。

感染性心内膜炎の高リスク患者さんとは、感染性心内膜炎が起こりやすい、あるいは重症化しやすい患者さんです。具体的には、以前に感染性心内膜炎に罹ったことがある、人工弁置換術を受けている、重症の先天性心疾患(複雑性チアノーゼ性先天性心疾患)があるなどです。また、感染に対する抵抗力が低下している患者さん(人工透析中・免疫不全の患者さんや、コントロール不良の糖尿病患者さんなど)で原因不明の熱がある場合も、感染性心内膜炎の可能性を考える必要があります。感染性心内膜炎を疑ったら、次に行うべきは心雑音を聴診で確認することです。心雑音は、感染性心内膜炎の患者さんの80~85%で認める非常に重要な所見です
診断の鍵を握るのは、心エコー検査と血液培養(血液を検体とした細菌培養検査)です。心エコー検査では、弁に付着した疣贅、弁の損傷と逆流(閉鎖不全症)を確認します。通常の心エコー検査(経胸壁心エコー検査)で大動脈弁や僧帽弁がよく見えない場合は、経食道心エコー検査が有用です(下の図)。

エコー検査風景_写真イラスト

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左図は、通常の心エコー検査風景(経胸壁心エコー検査)です。経食道心エコー(右図)では、先端に超音波トランスデューサが搭載された胃カメラのような形のプローブを食道に挿入して検査します。通常の検査で肺や骨に邪魔されて心臓がよく見えない場合でも、心臓のすぐ後ろにある食道から超音波をあてると鮮明な画像が得られます。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス(一部改変)

経食道心エコー写真

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矢印で示すように、左の写真では大動脈弁の左心室側に、右の写真では僧帽弁の左心房側に疣贅(細菌の固まり)が付着しています。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス(一部改変)

心エコー検査で感染性心内膜炎が疑われたら、原因菌を調べるために血液培養を行ないます。抗菌薬を始めた後に血液培養を行うと原因菌が検出されにくくなるので、抗菌薬の投与前に行うのが原則です。1回に2セット以上、時間をあけて2回以上採血することで原因菌の検出感度が上がります。
已むを得ず抗菌薬を開始した後に血液培養を行わないといけない場合は、抗菌薬を一時中断して検査を行います。できるだけ長く中断するのが良いのですが、病状に応じて中断時間は12〜48時間とします。重症の場合は、抗菌薬を中断せずに血液培養を行うこともあります。原因菌が同定されたら、どの抗菌薬が効いてどの抗菌薬が無効なのかを調べます(薬剤感受性試験)。

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