福岡県太宰府市の丸山医院(内科・消化器科・循環器科・リハビリテーション科)

2023-01-31

<サイドメモ>AEDは、心室細動の人の命を救う医療器械です

こちらの記事は、『虚血性心疾患>急性心筋梗塞の診断と治療』の補足記事です。

AED(自動対外式除細動器)は、「心室細動」という突然死を引き起こす危険な不整脈を正常なリズムに戻すために、一般人でも使えるように開発された医療機器です。

我が国では、年間約10万人が突然死しているといわれています。世界保健機構(WHO)の定義では、「突然死とは、瞬間死あるいは急性症状の発現後24時間以内の外因死を除いた内因死」。わかりやすく言うと、「突然の症状がみられた直後に死亡した場合、または突然の症状がみられてから24時間以内に死亡した場合で、外傷や事故などが原因の死亡(外因死)を除いたもの」が突然死です。突然死の半数以上は心臓突然死(心臓が原因の突然の心停止)であり、その原因の大半は急性心筋梗塞です。

心臓突然死には何の前触れもないので、事前の予測は不可能です。いきなり起こった心停止に対して何もしないままでいると、生存率は1分毎に約7~10%ずつ低下していき3~4分以上経つと脳の回復は困難です。
心停止の心電図所見には、心静止と心室細動の2つがあります。心静止は、心電図の電気信号が全くみられず心臓が全く動いていない状況であり、電気ショックを行なっても心拍は回復しません。一方、心室細動は、心筋が不規則に細かく震えている状態で、心電図では基線の細かい上下の揺れが記録されます。心臓全体としての収縮はみられず心静止と同様にきわめて深刻な状況ですが、電気信号はまだ残っているので心臓に対して電気ショックを行えば正常な心拍に戻すことができます。

当院の外来受付カウターに設置されているAED

心室細動が起こった場合、生命を救うためには5分以内に電気ショックを行う必要があります。救急要請をしてから救急車が到着するまでには平均8.9分*1かかるので、救急車の到着を待っていては心室細動の人の命は救えません。
心室細動で倒れた人(心室細動が起こると、あっという間に意識不明になります)の近くにたまたま居合わせた人が直ちに電気ショックを行うことができれば、心室細動の人の生命を救うことができます。AEDは、そのために開発された医療器械です。

AEDの操作の大まかな流れは、以下の通りです*2。AEDの電源ボタンを押すと、操作についての音声案内が始まります。倒れている人の胸をはだけて、電極パッドに描かれている図と音声案内に従って胸の右上と左脇に2枚の電極パッドを貼り付けます。10〜15秒程すると、心電図の自動解析が終わります。
その間、対象者の体に触れると心電図の自動解析ができなくなるので、電極パッドを貼り付けてから自動解析が終わるまでは対象者の体に触れてはいけません。
AEDが心室細動と判断した場合は、「点滅しているボタンを押してください」という音声指示が流れて電気ショックの実施を促します。心室細動ではないと判断された場合は、通電ボタンを押しても電気は流れず、「ただちに心肺蘇生(胸骨圧迫)を開始してください」という音声指示が流れます。
消防庁の公表*1によると(下の図をご覧ください)、令和2年中に心臓突然死(原文では、心原性心肺機能停止)のために倒れるところを一般市民によって目撃されたのは25,790人で、そのうち一般市民が心肺蘇生を行なった傷病者は14,974人(58.1%)でした。そのうち、一般市民がAEDを使用し除細動(心室細動に対する電気ショック)まで行なった1,092人に注目すると、1ヵ月後の生存者数は581人(53.2%)、1ヵ月後の社会復帰者数(1ヶ月後に元の生活に戻れた人の数)は479人(43.9%)でした。
心室細動で倒れた人の近くにたまたま居合わせた人が直ちに心肺蘇生を行い電気ショックまで行うことができれば、その後の生存率と社会復帰率は、何も行わなかった場合に比べて大いに向上しました。残念ながら、心臓突然死で倒れた直後にAEDによる除細動まで行うことができた傷病者はまだまだ少数です。しかし、AEDがうまく活用されれば、より多くの人命が救われることが実際のデータが実証しています。

令和2年中に、心臓突然死(原文では、心原性心肺機能停止)をきたした瞬間を一般市民に目撃された傷病者数は25,790人。そのうち、一般市民が心肺蘇生を行なったのは14,974人(58.1%)、更にそのうちAEDを使用し除細動(心室細動に対する電気ショック)まで行なえたのは1,092人でした。
1ヵ月後の生存率は、何も行われなかった場合(8.2%)に比べて、心肺蘇生を受けた場合(15.2%)は1.9倍、AEDによる除細動まで受けた場合(53.2%)は6.5倍でした。
同様に、1ヵ月後の社会復帰率(1ヶ月後に元の生活に戻れた人の割合)も、それぞれ2.7倍(53.2%)・11.6倍(43.9%)と大幅に改善しました。

出典:報道資料「令和2年版 救急・救助の現況の公表」(総務省 消防庁)の「図13 一般市民が目撃した心原性心肺機能停止傷病者のうち、一般市民による心肺蘇生等実施の有無別の生存率(令和2年)」を一部改変

AEDは、講習を受けていない初めての人が使うことも法的に許されています。しかし、操作は簡単でも、何が起こったか分からない緊迫した状況で、見たこともない器械を使いこなすことは容易ではないと思います。突然の緊急事態に備えてトレーニングを受けることができれば、それに越したことはありません。
AEDの使い方だけでなく、心臓マッサージ(胸骨圧迫)など一般向けの救命処置の講習会が消防署などで行われています。*3

*1:報道資料「令和3年版 救急・救助の現況の公表」(総務省 消防庁)
*2:フィリップス社>AED 自動体外式除細動器 >AEDの使い方-応急手当(CPR)の手順(心肺蘇生の手順やAEDの操作を示す動画、AEDの音声案内などが紹介されています。)
*3:筑紫野太宰府消防本部>試験・届出・講習会>普通・上級救命講習(再講習)並びに救急講習案内

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