福岡県太宰府市の丸山医院(内科・消化器科・循環器科・リハビリテーション科)

2021-01-16

睡眠時無呼吸症候群

呼吸が10秒以上 止まって気道(*1)の空気の流れが停止した状態を「無呼吸」と言います。1時間あたり5回以上の「無呼吸」があり昼間の眠気が強い場合、もしくは症状の有る無しに関わらず「無呼吸」が1時間に15回以上みられた場合は睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS(*2))と診断されます(米国睡眠医学会の診断基準、2005年)。

ご家族から「いびきがひどいよ」とか「寝ている時に息が止まってるみたい」などと言われた場合や、昼間の眠気が強くて居眠り運転をしそうになったり会議中にウトウトすることが多い場合は、SASを疑ってみる必要があるかもしれません。

SASは、生活習慣病や心疾患と深く関わっています!

呼吸が止まると血液中の酸素濃度が低下して、交感神経が刺激されます。
交感神経が刺激されると、血圧は高くなり血糖値やコレステロール値も上昇します。

従って、高血圧・糖尿病などの生活習慣病はより一層悪くなり、正常の人においても生活習慣病の発症率が高まります。

SASの人の疾病発症リスクをSASではない人と比較した場合、高血圧の発症リスクは2倍、糖尿病は2〜3倍、脳卒中は4倍、狭心症・心筋梗塞は2〜3倍、心不全は2倍、不整脈は2〜4倍と高いことが分かりました。

逆に、SASの合併率を疾患別に調べた報告を見てみると、下の図のように、高血圧や糖尿病などの生活習慣病や心不全や心房細動(不整脈のひとつ)などではSASの合併が高率でした。

生活習慣病や心疾患における睡眠時無呼吸症候群(SAS)の合併率

外来で、SASのスクリーニング検査が受けられます!

SASが疑われた場合、まず外来で「簡易型睡眠モニター」というスクリーニング検査を行います(下図)。

この検査では、鼻や口での空気の流れ、動脈血液中の酸素濃度(動脈血酸素飽和度:SpO2)を測定します。

外来検査で診断がつかない場合は、入院検査(「ポリソムノグラフィー」あるいは「終夜睡眠ポリグラフ」という検査です)を受けていただく必要があります。
入院検査では、脳波や筋電図も測定し、無呼吸だけでなく睡眠状態を詳細に解析することができます。

当院でも、SASの簡易スクリーニング検査が外来で受けられます。
簡易検査で診断がつかない場合は、済生会二日市病院や福岡大学筑紫病院に検査入院(1泊)をお願いしています。

外来で行う簡易睡眠時無呼吸検査(簡易型睡眠モニター)の実際の様子
(株式会社フィリップス・ジャパン 提供)

SASには、「閉塞性」と「中枢性」があります!

のど(上気道)が何らかの原因でふさがってしまい息ができなくなった状態が「閉塞性」SASで、SASの9割ほどが「閉塞性」です。肥満のため首まわりの脂肪が多いと上気道の閉塞を生じやすくなりますが、肥満がなくても顎(あご)が小さいと「閉塞性」SASになることがあります。

一方、「呼吸せよ」という脳からの命令が一時的に伝達されなくなった状態が「中枢性」です。「閉塞性」では息を吸い込む時に喉が詰まるので、いびきがあります。一方、「中枢性」では呼吸自体が一時的に止まるので、いびきは生じません。

正常の起動の状態と(左)、SASにおける気道閉塞のさまざまな原因を示した図(右)
ウェブサイト「あなたのいびきは睡眠時無呼吸症候群?」(https://www.sleep.or.jp/)より

治療対象となるSASとは?

「無呼吸」と「低呼吸」の1時間あたりの平均回数の合計を無呼吸低呼吸指数(AHI(*3))と呼び、SASの重症度の指標として重要です。

「低呼吸」とは、換気(気道の空気の流れ)の明らかな低下に加えて、動脈血酸素飽和度が3~4%以上低下した状態もしくは覚醒を伴う(息苦しくて目が覚めてしまう)状態のことです。

「閉塞性」の場合、AHIが5以上15未満は軽症、15以上30未満は中等症、30以上は重症と判定します。

なお、健康保険で治療が認められているSASは、外来検査の「簡易型睡眠モニター」でAHI:40以上の場合、あるいは入院検査の「ポリソムノグラフィー」でAHI:20以上である場合です。

SASは、どのようにして治療するの?

「閉塞性」SASでは、まず飲酒や睡眠薬の使用を制限し、肥満者には体重の減量を指導します。これらの対策によって重症度が下がることがあり、軽症ではAHIが正常域まで改善することもあります。

しかし通常は、このような生活習慣の改善だけでは十分な効果は得られず、口腔内装置(マウスピース)や持続陽圧呼吸療法(CPAPマスク)さらに耳鼻科的手術が必要となる場合もあります。

マウスピースを装着すると下あごが前方に移動して気道が広がるので、軽症~中等症の「閉塞性」SASでは改善が期待できます。CPAPマスク(シーパップマスク)は、気道に空気の圧力(陽圧)を持続的にかけることによって、舌の根元が落ち込んで気道が狭くなりふさがるのを防ぎます。

「中枢性」SASは、脳疾患や心不全などに合併することが多く、原因となる疾患の治療により改善することが多いです。

例えば、心不全にSASが合併している患者さんで、心不全の治療前は「中枢性」が大半であったのが、心不全症状が治療により治まった後は「閉塞性」が大部分を占めるようになりCPAPマスクがよく効くようになったということもよくあります。

SASは、なぜ治療するの?

社会的には、SASを治療すると日中の眠気がなくなり、交通事故や労働災害を減らすことができるでしょう。

また医学的には、SASの治療により、血圧・血糖値・HbA1C・コレステロール・中性脂肪が改善するので、高血圧症や糖尿病・高脂血症などの生活習慣病の改善が期待できます。
例えば、CPAPマスクを使い始めたことにより、3種類だった血圧の薬を2種類に減らせることもあります。

さらに、生活習慣病が改善すれば、心筋梗塞や脳卒中などの合併症の発生が減ります。合併症で死亡することが減れば、平均寿命を延ばすことができます。

また、合併症で起こる後遺症(例えば手足の麻痺など)が減れば、日常生活を制限する健康上の問題が減るので健康寿命も延びるでしょう。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の交通事故の発生に及ぼす影響。上のグラフでは、SAS患者さんとそうでない人での交通事故発生率を比べています。下のグラフは、SASの重症度が増すほど交通事故発生率が高まることを示しています。

 

*1:気道とは、吸い込んだ空気が肺の奥まで届く通り道のことで、鼻腔からのど(咽頭・喉頭)・気管・気管支さらに肺胞までを指します。

*2:睡眠時無呼吸症候群を英語では“Sleep Apnea Syndrome”と言い、その頭文字をとって SASと略します。

*3:無呼吸低呼吸指数を英語では“Apnea Hypopnea Index”と言い、その頭文字をとってAHIと略します。

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