福岡県太宰府市の丸山医院(内科・消化器科・循環器科・リハビリテーション科)

2024-04-12

PADとは?

PADとは「足の閉塞性動脈硬化症」のこと

つい最近まで、下肢(以後は、足)の閉塞性動脈硬化症のことをPAD(抹消動脈疾患、Peripheral Artery Diseaseの略称)と呼んでいましたが、最新のガイドライン*1 ではLEAD(下肢動脈疾患、Lower Extremity Artery Diseaseの略称)と呼ぶことが提唱されています。しかし、他の多くの施設のホームページでは「足の閉塞性動脈硬化症」に対する用語としてPADが使われており、現状ではLEADよりもPADの方がまだ一般的のようです。そこで、本稿でも「足の閉塞性動脈硬化症」のことをPADと呼びます。

PADは、全身の動脈にみられる動脈硬化症の一部です

PADは、動脈硬化によって足の動脈の内腔が狭くなる、あるいは閉塞することにより血行障害が起こり、足先まで血液を充分に供給できなくなった状態です。動脈硬化は、全身の動脈すなわち心臓の冠動脈、大動脈、脳・頸部の動脈などでも発生し進行します。その結果、狭心症や心筋梗塞大動脈瘤、脳梗塞が起こります。それぞれ、心臓の病気、脳の病気などと考えがちですが、根本的な原因は全身性の病気である動脈硬化症であることを忘れてはいけません。
実際、PADの1/2に心筋梗塞や狭心症が、1/4に脳梗塞が合併していたというデータがあります。また、PADの予後(疾病の医学的な長期的見通し)は不良で死亡率は高く、重症のPAD(重症下肢虚血)では5年間で半分くらいの患者さんが亡くなります(下の図)。死亡原因の75%は、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管病です。足の動脈硬化症が進行してPADが問題になる頃には、すでに全身の動脈硬化症もかなり進行しているのです。

生存曲線

Inter-Society Consensus for the Management of Peripheral Arterial Disease (TASC II)
J Vasc Surg 2007; events, mostly ruptured aortic aneury 4s5m, ,Sucpapul sSe: Sa5pAp- rso67xAi

PAD患者さんと、年齢をマッチさせた対照群の生存曲線です。「間歇性跛行があるPAD」も「重症下肢虚血があるPAD」も、対照群に比べて生存率が良くありません。とくに重症下肢虚血があるPADは、診断から5年後には半数以上の患者さんが亡くなっています。
出典:Journal Vascular Surgery 2007; 45(Suppl): S5A-67A

1954年に発表されたフォンテイン(Fontaine)の重症度分類は簡便かつ実用的で、現在でも広く用いられています(下の表)。PADの経過をよく反映しており、PADのあり様を理解する上でも有用です。

フォンテインの分類

軽症のPADは無症状です

初期のPAD、軽症のPADは無症状です(フォンテイン分類 Ⅰ度)。PADは無症状のことが多く、症状がある患者さんの2〜5倍いると言われています。当然のことながら、動脈硬化や足の虚血が軽ければ無症状です。虚血とは、臓器に酸素と栄養が充分に行き渡らなくなったために臓器の働きが障害されることです。
しかし、無症状でも、動脈硬化や虚血の程度が軽いとは限りません。神経障害があるために痛みを感じない場合や、知らないうちに症状が出ない範囲で行動するようになっている場合もあります。また一部には、高度の虚血があるにも関わらず無症状あるいはほとんど症状がない、例外的な重症PADもあります(潜在的重症下肢虚血)。

典型的な症状は、間歇性跛行(かんけつせいはこう)です

最も典型的な症状は、しばらく歩くと足のしびれや痛みのために歩けなくなり、少し休むとまた歩けるようになる間歇性(間欠性)跛行です(フォンテイン分類 Ⅱ度)。跛行とは、何らかの原因で正常に歩けなくなった状態です。PADでは、片方の足のふくらはぎより先でしびれや痛みを感じることが多く、立ち止まって休むと10分以内に歩けるようになります。PADが悪化するのに伴い、続けて歩ける距離が短くなります。例えば、「以前はバス停まで難なく歩けたけれど、最近は途中で1〜2回立ち止まる」のような感じです。

ところで、間歇性跛行は腰部脊柱管狭窄症でもみられます。腰部脊柱管狭窄症では、両方のお尻から足全体にしびれや痛みを感じることが多いです。最初は立ち止まるとすぐに症状は和らぎますが、進行すると立ち止まるだけでは治らず腰を曲げて前屈みにならないと楽になりません。なお、腰部脊柱管狭窄症の7〜26%にPADが合併しているといわれており注意が必要です。

重症のPADを、重症下肢虚血といいます

PADが進行すると、安静にしていても足が痛くて眠れなくなることがあります(フォンテイン分類 Ⅲ度)。足を下げると痛みが和らぐので、ベッドから足を下げて眠る患者さんもいます。
血流不足がさらに深刻化すると、足の指先やくるぶしなど圧迫を受けて血流が低下しやすい部位で、壊死(組織が死んだ状態)や潰瘍(皮膚の表面の組織が壊死して皮下組織が露出した状態)を生じることがあります(フォンテイン分類 Ⅳ度)。血流不足のために潰瘍や壊死の治りは悪く、無治療だと患部は徐々に広がります。
フォンテイン分類 Ⅲ度と Ⅳ度のPADを合わせて、重症下肢虚血と呼びます。重症下肢虚血は、場合によっては足の切断が必要になる深刻な状態です。

*1:日本循環学会/日本血管外科学会合同ガイドライン 抹消動脈疾患ガイドライン(2022年改訂版)

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