福岡県太宰府市の丸山医院(内科・消化器科・循環器科・リハビリテーション科)

2023-12-07

感染性心内膜炎の治療

感染性心内膜炎は、未治療のままだとほぼ100%死に至り、治療を行っても院内死亡率(入院中の死亡率)は15%以上と高率です。とくに、人工弁の感染性心内膜炎の予後(疾病の医学的な見通し)は良くありません。感染性心内膜炎は診断が難しい病気ですが、的確に診断してできるだけ早く抗菌薬を開始することが肝要です。

疣贅内は血流が乏しく抗菌薬が行き渡りにくいので、通常より多めの抗菌薬を長めに投与します。適切な抗菌薬を選択できるかどうかがキーポイントですので、血液培養は非常に重要です。血液培養の結果が出るまでには数日かかりますが、その間は、患者さんの病状や背景(急性か亜急性か、人工弁置換術後か否かなど)から原因菌を推定しそれに対応する抗菌薬を選択します。血液培養の結果が出たら、薬剤感受性試験の結果を参考にして原因菌に有効な抗菌薬を選択します。抗菌薬の点滴は4〜8時間毎に行い、人工弁置換術後の場合は6〜8週間、そうでない場合は4〜6週間継続します。他の感染症での抗菌薬の点滴は1日1〜2回、投与期間は数日から2週ほどです。治療開始後72時間を目安に、発熱などの症状や検査結果に基づいて抗菌薬の効果を判定します。最も重要なのは、血液培養で原因菌が検出されなくなることです。抗菌薬が効いて治療がうまく行っている場合は、1週間以内に解熱して全身状態が改善します。

内科的な治療で持ち堪えられなくなった場合は、手術が必要です。手術が必要なのは、心不全が内科的治療では治せないくらい重症となった場合、適切な抗菌薬を3〜5日間投与しても高熱がひかず白血球数やCRP*1などの検査所見の改善がみられない場合(治療抵抗性感染症)、疣贅が1cm以上と大きいあるいは拍動のたびに激しく動くなど塞栓症(疣贅片が動脈に詰まること)の危険性が高い場合です。

手術の目的は、感染巣(感染した組織)を完全に取り除いて細菌をできるだけ残さないようすることと、損傷した組織を修復することです。感染巣が疣贅の付着した弁に限られている場合は、人工弁置換術あるいは僧帽弁であれば弁形成術を行うだけで、感染巣の除去と組織の修復という2つの手術目的は達成されます。弁周囲の組織破壊がひどい場合は、感染組織を取り除いた後にウシやブタの心膜で欠損部位を再建修復する必要があります。

感染性心内膜炎の予防

多くの国のガイドラインでは、感染性心内膜炎の高リスク患者が、菌血症が起こりやすい高リスクの医療行為(治療や処置、下の表)を受ける時だけに限って、感染性心内膜炎の予防のために抗菌薬を内服することを推奨しています。費用対効果を考慮して、抗菌薬の予防投与を感染性心内膜炎の高リスクの場面だけに限定しようという考え方です。

一方、我が国のガイドライン*2では、感染性心内膜炎の高リスク患者だけでなく、中等度リスクの患者に対しても抗菌薬の予防投与を考えてもよいとしています(下の表)。また、菌血症が高リスクの医療行為には「抗菌薬投与を行うことを強く推奨」し、中等度リスクの医療行為にも「抗菌薬を投与した方がよいと思われる」としています。諸外国のガイドラインに比べて、救済範囲を大きく広げた考え方です。この点に関しては、サイドメモ「抗菌薬予防投与にまつわる話」をご参照ください。

リスク別の例

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感染性心内膜炎の発症や重症化のリスクとなる疾患や患者背景と、菌血症が発生しやすい検査や治療について、それぞれ高リスクと中等度リスクに分けて主なものを列挙しています。

参考資料:日本循環器学会 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)

予防投与の具体的な手順としては、アモキシシリン2g(通常用量の2日分)を、処置の1時間前に1回で内服することが推奨されています。処置や治療を行う間とその直後に、抗菌薬を効果的に効かせるためです。ペニシリンアレルギーがある場合には、クリンダマイシン・クラリスロマイシン・アジスロマイシンなどが代替え薬として提案されています。

*1:CRPは、身体の中で炎症が起きている時に血液中で増加するC反応生蛋白(CReactive Protein)の略称です。肺炎でも風邪でも怪我でも、とにかく炎症があればCRPの数値は上昇します。CRPの値は炎症の強さに応じて増減するので、炎症の改善や悪化を判断する指標として非常に有用です。ただし、CRPだけでは炎症の原因はわかりません。

*2:日本循環器学会 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版PDF)

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