<サイドメモ>左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)
こちらの記事は、『心不全とは?』の補足記事です。
心臓(左心室)の収縮能の体表的な指標として、左室駆出率(LVEF)があります。左心室が一番大きく拡がった時の容積(左室拡張末期容積)から一番小さく縮んだ時の容積(左室収縮末期容積)を引いた容積を一回拍出量または駆出量といい、1回の収縮で左心室が大動脈に押し出す血液量です。一回拍出量を左室拡張末容積で割り100をかけたものが左室駆出率(%)で、1回の収縮で左室拡張末期容積の何%が駆出されるかを表しています。正常値は55〜80%です。LVEFの計算で必要な左心室の容積は、心プールシンチグラフィー・左室造影・MRI・CTなどで測定した指標に基づいて計算しますが、最も多用されているのは心エコーで計測した指標です。心エコーで求めたLVEFは、循環器専門医だけでなく、一般内科医や外科医にも馴染みのある心機能の指標です。
左心室の容積の関係を示すイメージ図です(著者作図)。
左心室が一番大きく拡がった時の容積を「左室拡張末期容積」、一番小さく縮んだ時の容積を「左室収縮末期容積」といいます。左室拡張末期容積から左室収縮末期容積を引いたものが「一回拍出量」または「駆出量」であり、1心拍で左心室が大動脈に駆出する血液量です。一回拍出量を左室拡張末容積で割り、100をかけたものが左室駆出率(LVEF)です。1回の収縮で左室拡張末期容積の何%が駆出されるかを表しており、心臓(左心室)の収縮能の体表的な指標です。正常値は55〜80%です。
私が医者になった1980年頃は、「心不全の原因は、左心室の収縮機能障害である」、「心不全=LVEFが低下した状態」と考えられていました。一方、収縮性心外膜や肥大型心筋症では、「拡張機能障害があるため、左心室の収縮機能が正常であっても心不全が起こる」ことはよく知られていました。
しかし、それらは例外的な心不全と位置付けられていました。その後、心不全でもLVEFが50〜60%以上である場合が少なからずあることがわかってきました。最近の研究では、心不全患者の半数以上でLVEFは正常もしくはほぼ正常(50%以上)と報告されており、近年はさらに増加傾向を示しています。ガイドラインでは、LVEFが50%以上の心不全を左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)と定義しています。LVEFは保たれているのですが、HFpEFはHFrEFと同じように予後不良です。
心不全のガイドラインでは、左室駆出率が40%未満の心不全を「左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)」、左室駆出率が50%以上の心不全を「左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)」と定義しています。左室駆出率が40%以上50%未満の心不全は、「左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)」と呼んでいます。
出典:2021年 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
HFpEFは、左心室の拡張機能障害が主な原因と考えられていますが、HFpEFの発生機序や病態は複雑で、まだ解明されていないことが多く残されています。HFpEFの代表的なリスクは高血圧症であり、そのほか左室肥大・加齢(高齢)・女性などが知られています。さらにHFpEFでは、心房細動・慢性腎臓病・肥満・糖尿病・慢性閉塞性肺疾患(肺気腫・慢性気管支炎・気管支喘息など)などの併存症が多いため治療がややこしくなります。
残念なことに、HFpEFには、HFrEF(左室駆出率が低下した心不全)のような確立した治療法がまだありません。一方、高齢者の心不全はHFpEFが多いので、高齢化に伴って急増している心不全の大半はHFpEFが占めると予想されています。このように、HFpEFに確立された治療法がないことは社会的にも大きな問題であり、予後を改善させる有効な治療法を見つけることが急務です。
そのような中、HFpEFにおいて、MRB(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)であるスピロノラクトンが「心不全入院」を減らし、SGLT-2阻害薬(ダパグリフロジンとエンパグリフロジン)が「死亡または心不全入院」を減らしたという朗報がありました。サクビトリル・バルサルタンも、HFpEFの治療薬として有望視されています。
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