福岡県太宰府市の丸山医院(内科・消化器科・循環器科・リハビリテーション科)

2021-09-13

虚血性心疾患:虚血性心疾患とは

心臓は休みなく収縮と拡張を繰り返して全身に血液を送り出すポンプとして働いていますが、このポンプを動かすための酸素とエネルギーを心臓に供給しているのが冠動脈(冠状動脈)です。冠動脈は心臓の表面を走行していますが、その枝ぶりがあたかも心臓に「冠」をかぶせたように見えるのがその名前の由来です。
「生活習慣病」の「高脂血症」の項で述べましたが、歳をとるにつれアテローム性粥状(じゅくじょう)動脈硬化のために動脈壁にはコレステロールが蓄積して、粥腫(じゅくしゅ=アテローム)の隆起(プラーク)が形成されます。冠動脈もその例外ではなく、動脈硬化をきたしやすい動脈のひとつです。

早足で歩いたり階段を上ったりした時には、心拍数が増えて心筋の酸素需要(必要量)が増します。動脈硬化が進行して動脈の内腔狭窄が高度になると血液の流れが制限されるので(下の左図)、酸素の供給が心筋の酸素需要の増大に追いつけなくなり「心筋虚血」をきたしてしまいます。「虚血」とは、臓器に酸素と栄養が充分に届かなくなったために臓器の働きが障害されることです。心筋が虚血状態になると、神経を介してSOS信号が発せられ胸の痛みや締め付け感を自覚することになります。これが狭心症です。

さらに動脈硬化が進行すると、プラークが破綻しその表面に血栓が付着します。血栓が大きくなり冠動脈の内腔を完全にふさいで血流が遮断されていまうと(下の右図)、その冠動脈が行き渡っている領域の心筋細胞は壊死(生体の一部の細胞や組織が死ぬこと)してしまいます。壊死した心筋は、元の正常の心筋に戻ることはなく不可逆性です。これが急性心筋梗塞です。

狭心症と心筋梗塞症をまとめて、「虚血性心疾患」と呼びます。広義の「虚血性心疾患」では、「虚血性心不全(虚血性心筋症)」と「虚血性心疾患に伴う致死性不整脈」を含めることもあります。我が国の虚血性心疾患は欧米に比べると少ないですが、高齢者人口の増加に伴い患者数は徐々に増えています。

【虚血性心疾患の冠動脈病変の模式図】
狭心症(左)では、コレステロールが蓄積して動脈壁に形成されたプラーク(粥腫の隆起)のため内腔が狭くなり血流が制限されます。
急性心筋梗塞(右)では、破綻したプラーク(ピンクの矢印)の表面に血栓が付着して内腔を閉塞し血流が遮断されてしまいます。
中央の図は、不安定狭心症(後述)の冠動脈病変病変の模式図です。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス(一部改変)

どんな症状があるの?

症状は、本当にさまざま

心臓が心筋虚血をきたすと、胸の痛みや圧迫感・息苦しさを感じることが多いです。さらに、顎(あご)やみぞおち、のど・肩などの痛みなどとして現れ、「親知らず」や「胃潰瘍」と勘違いされることもあります。これは関連痛といい、内臓痛によって生じた強い電気的興奮(電気刺激)が脊髄内で漏電して隣接する別の神経線維を興奮させたために、その神経が行き渡っている領域(心臓とは別の部位)の痛みとして誤認されることが原因と考えられています。狭心症の関連痛は、上半身の左側(左腕・左肩・左下顎など)で多くみられます。

急性心筋梗塞では、狭心症に比べて冷や汗や吐き気を伴う激烈な痛みがより多いようですが、「何となく胸がつかえた感じ」のような軽い症状のことも少なくありません。高齢者や糖尿病患者の一部では明らかな自覚症状がみられないこともあり、とくに高齢者では「何となく元気がない」ことが急性心筋梗塞の診断のきっかけであったりします。

狭心症の症状は数分だが、急性心筋梗塞の症状の持続は長い

狭心症では、「階段や坂道を上っている時」「バスに乗ろうとして小走りした後」など心拍数が増えて心筋の酸素需要が増えた時だけ酸素の供給不足を生じ心筋虚血をきたしますが、安静にして心拍数が平常に戻れば心筋虚血は解消されます。つまり、狭心症の心筋虚血は「一時的」なものなので、症状の持続は2〜3分であることが多く長くても10〜15分です。

一方、急性心筋梗塞では、運動時・安静時に関わらず突然に胸の症状が出現します。急性心筋梗塞の心筋虚血は、詰まった血栓が解けて冠動脈の血流が再開しない限り解消されません。急性心筋梗塞では少なくとも20〜30分以上持続し、数時間以上続くことも多く翌日まで続くこともあります。急性心筋梗塞の約半数では発症前の24時間以内に狭心症の症状がみられますが、残りの半数では何の前触れもないと言われています。

「不安定狭心症」とは? 「急性冠症候群」とは?

上述のように、典型的な狭心症と典型的な急性心筋梗塞を区別するのはそれほど難しいことではありませんが、実際には詳しく検査を行っても両者を区別できないことが少なくありません。そのような重症の狭心症は「不安定狭心症」と呼ばれ、適切な対応を行わずにそのままにしていると急性心筋梗塞になるリスクが高いので急性心筋梗塞に準じた対応を行うべきです。「不安定狭心症」の冠動脈病変部では、内腔を塞いだ血栓が少し溶けて血流が戻ったりまた塞がったりと不安定な状況であることが想定されます(上の中央の図)。

急性心筋梗塞では、血流の再開は1分でも早いことが望ましいのは言うまでもありません。急性心筋梗塞と不安定狭心症を厳密に区別すること(鑑別診断)に時間をかけてしまい、血流の回復を遅らせてしまっては全く意味がありません。不安定狭心症であっても急性心筋梗塞であっても、疑わしい場合には、冠動脈の状態を正確に把握するために一刻も早く心臓カテーテル検査(冠動脈造影検査)を行うことが重要であり、必要であれば引き続き血流を再開させるためカテーテル治療を行うべきです。このような考え方に基づき、不安定狭心症と急性心筋梗塞をまとめて「急性冠症候群」と呼び迅速な対応を強く後押ししています。

ページ上部へ移動