生活習慣病:高血圧症
高血圧とは?
血圧とは、血管内の血液が血管の壁を押すことで生じる圧力のことです。血液を全身に行き渡らせているのは心臓です。心臓が収縮して血液を大動脈へ送り出している間は、血圧は高くなります(収縮期血圧、上の血圧)。
左心室から大動脈へ血液を送り出し終わると、左心室の出口の大動脈弁が閉じて血圧は一定の値まで下がります(拡張期血圧、下の血圧)。診察室で測った収縮期血圧 140mmHg以上、かつ/または 拡張期血圧 90mmHg以上の場合を「高血圧」と言います。自分で測った血圧(家庭血圧)の場合、高血圧の基準値は 収縮期血圧 135mmHg、拡張期血圧 85mmHgです。
高血圧は、なぜ治療しないといけないの?
長期間の住民調査(フラミンガム研究や久山町研究など)の結果により、血圧が高い人ほど心臓血管系の病気(脳梗塞や心筋梗塞など)になりやすく、死亡率も高くなることが分かりました。
とくに、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上になると、病気のリスクや死亡率が明らかに上昇することが示されました。さらに数々の臨床研究により、高血圧を治療して血圧を下げると、心臓血管系の病気を発症するリスクや死亡率が減ることが確認されました。
高血圧治療の目的は、5年後・10年後に脳梗塞や心筋梗塞にならないようにすること(心臓血管系の合併症の予防)です。つまり、将来の自分が健康であるための先行投資です。
どこまで血圧(家庭血圧:自分で測った血圧)を下げるかというと、75歳未満では125/75mmHg未満、75歳以上でも135/85mmHgです
高血圧治療ガイドライン2019年(日本高血圧学会)によると、目指すべき血圧の治療目標は、「75歳未満は診察室血圧(言い換えると、病院やクリニックで医者や看護師が測った血圧。以後、青字で示します) 130/80mmHg未満、75歳以上(後期高齢者)でも140/90mmHg未満」とされています。家庭血圧(患者さんが自分で測った血圧。赤字で示します)の降圧目標値は診察室血圧よりそれぞれ5mmHgずつ低く設定されており、75歳未満の降圧目標値は125/75mmHg未満で、75歳以上でも135/85mmHg未満です。
一般的に、高齢者ではいろいろな臓器の働きが低下していることが多いので、若年者よりも慎重に治療する必要があります。しかし、糖尿病、尿蛋白陽性の慢性腎臓病(いわゆる腎機能障害、血清クレアチニン値がわずかに正常値を越える場合も含みます)を合併している高血圧患者さんでは、心筋梗塞、脳卒中などを発症するリスクが高いので、これらの疾患を予防するために125/75mmHg未満の降圧目標値が推奨されています。また、抗血栓薬を服用中の場合も、脳出血を回避するために診察室血圧を130/80mmHg未満に保つことが推奨されています。さらに、75歳以上の高齢者でこれらのリスクがない場合でも、「脳動脈が閉塞している」など血圧を下げることに付随する不都合がなければ、家庭血圧 125/75(診察室血圧 130/80)mmHg未満を目標にすることが望ましいとされています。
高血圧の診断基準と降圧目標です。
*1 CKD(慢性腎臓病)とは、慢性腎不全のことです。血液透析を受けている重症の患者さんばかりでなく、血清クレアチニン値が正常値をわずかに越えている場合も含みます。
*2 血液を固まりにくくする抗血栓薬には、血小板を抑制する抗血小板薬と、血液凝固因子を抑制する抗凝固薬があります。
*3 75歳以上の高齢者でも、冠動脈疾患や糖尿病などがあるため130/80mmHg未満を目標とすべき場合、130/80mmHg未満に下げても支障ない場合は130/80mmHg未満が降圧目標値です。
出典:高血圧治療ガイドライン2019(日本高血圧学会)
高血圧の治療の第一歩は、生活習慣の是正!
高血圧の治療には、薬物療法(降圧薬の内服)と生活習慣の是正があります。生活習慣の是正は降圧薬と同じくらいの効果が期待でき、副作用の心配もなく安全でしかもお金もかかりません。「薬を飲んでいるから大丈夫」と油断せずに、好ましくない生活習慣を少しでも改善できれば薬を減らすことができます。
じゃあどうすれば良いかというと、私がいつも申し上げているのは「体重を毎日チェックしてください」「毎日30分間歩いてください」「食事の塩分量に関心を持ってください」の3項目です。
体重は、血圧に直結しています!
痩せ型の患者さんでも、体重がさらに減れば高血圧は改善します(血圧は下がります)。まず、体重計で体重を毎日チェックして太らないようにしましょう。
20万人以上の健診データに基づく研究によると、体重を4%以上減らすことができれば(50kgの人であれば2.0kgの減量)血圧が有意に下がることが確認されました。4%以上の減量は、血糖値にも血清コレステロール値にも良い影響がありました(サイドメモ「まずは、4%の減量を!」をご参照ください)。2〜3kgの減量なら、何とかできそうですね。
運動は、「万能薬」です!
体重を減らすことと同じように、運動することも、血圧・血糖値・血清コレステロール値に対して良い影響を及ぼす「万能薬」です。運動にも色々ありますが、福岡大学スポーツ科学部が提唱しているニコニコペースの早歩きがおすすめです。毎日30分間歩く(あるいは1時間を週3回)ことで、血圧が5〜10mmHg下がります。
塩分制限はむずかしい!
あるアンケート調査によると、90%の人が「塩分の取り過ぎは、血圧に良くない」ことを認識していました。しかし、塩分を制限には具体的にどうしたら良いかよく分からないし指導するのも一苦労です。
日本人の塩分摂取は1日当たり約10gですが、国別で見ると日本人の塩分摂取量は世界のトップクラスです。つまり、平均的な日本人は塩分過多だと言えます。日米欧の高血圧学会は1日塩分摂取量を6g以下にすることを、世界保健機構(WHO)は5g以下を推奨していますが、日本人にとってはかなり高いハードルです。
自分の味覚に頼って「これは塩辛く感じないから大丈夫」というやり方では、塩分制限はうまくいきません。まず、食品の塩分量について興味を持ちましょう。
最近では、塩分含有量を表示している食品がちょっと増えてきましたが、多くはNa(ナトリウム)で表示されています。Na量から塩分(NaCl)相当量を知るには、Na量を2.5倍すればよいです。Na;1000mgであれば、塩分;2500mg=2.5gになります。意外な食品に塩分が多く含まれていることに、びっくりするかもしれませんよ。
うどんの汁やラーメンのスープを残すのは、塩分制限の基本中の基本ですね。さらに、「味がしない」と言いながら醤油や塩を振りかける、「最後の一振り」「最後のひとかけ」をまず止めましょう!
参考情報
日本高血圧協会 http://www.ketsuatsu.net/index.html
ホーム>高血圧Q&A
全国健康保健協会 https://www.kyoukaikenpo.or.jp
ホーム>健診・保健指導のご案内>生活習慣とその予防
国立循環器病研究センター/循環器病情報サービス http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/
ホーム>循環器病あれこれ>高血圧・腎臓病
国立循環器病センター病院 http://www.ncvc.go.jp/hospital/
ホーム>患者の皆様へ>循環器病について知る>栄養・食事について
一般向け 「高血圧治療ガイドライン 2019」解説冊子 「高血圧の話」
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019_gen.pdf
サイドメモ:「まずは、4%の減量を!」はこちら
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