<サイドメモ>体重に応じた利尿薬の調整
こちらの記事は、『心不全の治療』の補足記事です。
心不全でみられる手足や顔のむくみは、静脈のうっ血(血液のうっ滞)により水分が毛細血管から滲み出して組織に溜まることが原因です。心不全が悪化すると余剰水分が増えて、むくみは強くなり体重は増えます。利尿薬により尿量が増えて余剰水分が減ると、むくみは軽くなり体重は減ります。利尿薬は、むくみやうっ血をとるのに欠かせない薬です。
左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)の基本治療薬は、レニン–アンギオテンシン–アルドステロン系(RAA系)を抑制するアンギオテンシン変換酵素阻害剤・アンギオテンシン受容体拮抗薬や、交感神経をブロックするβ遮断薬などです。これらの心不全治療薬が登場し始めた1980年代までは、心不全の薬は利尿薬と強心薬(心臓の収縮力を高める薬)のジギタリスくらいしかありませんでした。当時は、ループ利尿薬を大量に用いることがよくありました。
しかし、HFrEFのコントロールが見違えるように良くなった現在では、大量の利尿薬を使うことはめっきり減りました。むしろ今では、利尿薬を使い過ぎて脱水にならないように注意しています。
脱水のために血管内の循環血液量が減ると血圧が下がり、血圧を上げようとするRAA系や交感神経を刺激してしまいます。HFrEFの治療の肝(きも)はRAA系と交感神経を鎮静化させることですから、利尿薬の使い過ぎでそれらの神経体液性因子を活性化させることは好ましくありません。
また、利尿薬が効き過ぎて循環血液量が減ると、腎血流量が減るため腎機能が悪化します。高齢者では、腎機能障害を伴っていることが多いので、利尿薬の使い過ぎにはとくに注意が必要です。
利尿薬を過不足なく適正に使うためには、心不全が悪化せず脱水にもならない体重(仮に、適正体重と呼びます)をキープする必要があります。適正体重は、手足のむくみの程度、胸部レントゲンでの心臓の大きさや採血検査の結果などから推定できます。適正体重を大きく上回った日だけ利尿薬を多めに飲むようにすれば、利尿薬の使い過ぎを防ぐことができるはずです。
具体的には、適正体重がおよそ50kgと考えられる場合、「朝の体重が52kg以上の日は、アゾセミド(ループ利尿薬)を1錠追加する」などと指示します。この方法は、患者さんがきちんと自己管理できることが前提ですが、ご家族または訪問看護師やホームヘルパーなどの協力があれば認知症の患者さんでも実施可能です。
また、自宅での管理が難しい場合は、デイサービスなどの通所サービスを利用する方法もあります。例えば、週2回のデイサービスを利用している場合は、その都度体重を測って医師が指示した通りに看護師が利尿薬を服用させれば良いのです。
この方法では、利尿薬の調整を毎日行うことはできませんが、週2回の調整により適正体重から大幅に外れることは減ると思います。なお適正体重は、患者さんの病状で変化するので、定期的な見直しが必要です。また、このような 体重に応じた利尿薬の調整 は、HFrEFだけでなくHFpEF(左室駆出率が保たれた心不全)にも有効な方法です。
[関連記事]