福岡県太宰府市の丸山病院(内科・消化器内科・循環器内科・リハビリテーション科)

2022-11-11

心不全の再入院を防ぐために

心不全が「どんどん悪くなる」のを防ぐため、再入院を減らす必要があります

急性心不全の治療を終えて退院後、しばらくすると病状は安定し体調はほぼ元に戻ります。しかし実際には、心不全は完全には治っておらず心機能は低下したままです。
症状が抑えられ安定しているのは、ACE阻害薬やβ遮断薬などの心不全治療薬によってバランスが取れているからです。慢性心不全の治療ではこの安定期をいかに長く保つかが重要ですが、服薬や日常生活の管理がいい加減だとまた悪くなって急性心不全で再入院になってしまいます。

入退院を繰り返すうちに、心不全症状がとれて退院できても全身状態が入院前の状態に戻らなくなります。全身状態が充分に回復しないうちに、また入院という悪循環が続くと体力は徐々に低下していきます(「心不全とは?」の項の心不全とそのリスクの進展ステージの図の下段をご覧ください)。

心不全がさらに進行して治療に対する反応が悪くなると(治療抵抗性)、患者さんの身体的な苦痛と精神的な負担は増すばかりで、ご家族の日常の生活も損なわれてしまいます。このように、心不全が「だんだん悪くなる」のを少しでも遅らせるために、再入院を防ぐ必要があります。

心不全の再入院を防ぐためには、「チーム医療」が重要です

再入院の誘因には、風邪・肺炎などの感染症や不整脈など防ぐのが難しいものもありますが、塩分制限・水分制限の不徹底や服薬指示の不履行など予防できるものもあります。再入院を防ぐには、

  1. 薬を指示通りにきちんと飲む
  2. 暴飲暴食をせず塩分を取り過ぎない
  3. 過労を避け充分な睡眠をとる
  4. 足のむくみ・息切れや急な体重増加など体調の変化に注意する(セルフチェック)

などが重要です。

症状がない安定期が長く続くと、患者さんは「心臓は正常に戻った」と勘違いして服薬や通院を中断してしまうことがあります。このようなことを防ぐには、「治ったように見えても、心臓(心機能)は悪いまま」であることを説明して、かかりつけ医に定期的に通院して薬を飲み続けることの必要性について、ご本人はもとよりご家族にも充分に理解していただく必要があります。

急性期病院では、医師・看護師・薬剤師・リハビリスタッフ(理学療法士 ・作業療法士)・管理栄養士・医療ソーシャルワーカー・臨床工学技士など多職種によるチーム医療がすでに実践されています。異なる視点から患者さんの異常や問題点を早期に発見し、卒直な意見を出し合って治療方針を決めます。それを踏まえて、それぞれの立場からわかりやすい服薬指導や食事指導・生活指導などを行い、入院治療から外来治療へスムーズに移行できるようにサポートします。

心不全のチーム医療のイメージ図です(筆者作図)。
患者さんご自身とご家族もチームの一員です。心不全のチーム医療にはさまざまな医療関係者が携わりますが、チームリーダーは看護師(慢性心不全認定看護師)やリハビリスタッフであることが多いようです。異なる立場から患者さんの病状の変化や問題点を早期に発見し、病状や治療方針を共有して患者さんをサポートします。

社会の高齢化に伴い、心不全患者が爆発的に増加しています

高齢化により65歳以上の高齢者人口と、総人口に占める高齢者人口の割合は一貫して増えています。それに伴い、肺炎・骨折・脳梗塞・心不全などが増えており、心不全の増加はとくに著しく大きな社会問題となっています。

高齢者の心不全は、若年者の心不全に比べて入院期間が長くなり再入院が多いです。その理由は、高齢者では若年者に比べて心不全の予後を悪化させる心房細動・貧血・腎機能障害などの併存疾患が多い上に、老化に伴う身体機能の低下(フレイル)や認知症があるため、心不全の治療がより難しいからです。高齢者では、心不全の再入院を減らすことがとくに重要ですが、このような要因のため再入院を防ぐことはとても困難です。

心不全の再入院を防ぐためには、「地域医療連携」も重要です

急性心不全の治療を終えた退院直後は、病状が不安定で再入院のリスクが高いです。自宅退院ができれば良いのですが、高齢の患者さんは老人ホームや介護福祉施設に退院される方もおられます。この時期をうまく乗り切るためには、急性期病院の循環器専門医とかかりつけの開業医あるいは老人ホームや施設の嘱託医が連絡を取り合って、患者さんのケアをうまく引き継ぐ必要があります。さらに医師だけでなく、患者さんに接する看護師やリハビリスタッフも「足が浮腫んでいないか」「息切れはないか」などをチェックすれば、再入院のリスクはさらに減るでしょう。

高齢の患者さんでは、薬の飲み忘れや服用量の間違いが心不全増悪の原因になっていることがよくあります。そのような場合は、服薬をなんとか1日1回にまとめて、患者さんが服薬するのをご家族やホームヘルパーが確認できるように工夫します。高齢者の心不全治療では、患者さんの世話をする人たちの理解と協力がとくに重要です。定期的な内服や体重管理などのセルフケアをサポートするために、医療施設の医師や看護婦だけではなく、訪問介護サービスや介護施設のスタッフなども含めた地域医療連携の役割が大きいと考えられます。

筑紫地区でも、地域の医療関係者や介護関係者がみんなでそれぞれの立場から心不全患者さんを支える体制を目指して、3つの急性期病院(済生会二日市病院・福大筑紫病院・福岡徳洲会病院)を中心に地域連携の輪が広がっています。その一環として、急性期病院・回復期病院・クリニックや診療所の医師のほか、リハビリスタッフや訪問看護師・ホームヘルパー・ケアマネージャーなども参加する勉強会や意見交換会が開催されています。

地域医療連携のイメージ図です。急性期病院(済生会二日市病院・福岡大学筑紫病院・福岡徳洲会病院など)での入院治療後は、自宅や施設に退院する、回復期リハビリテーション病院や療養病床のある病院でリハビリを継続するなど様々です。心不全患者さんの再入院を防ぐには、地域の医療機関や介護機関を総動員して、一人一人の患者さんをケアすることが重要です。

出典:脳卒中と循環器病克服 第二次5ヵ年計画

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