大動脈解離とは?
大動脈の壁が裂ける病気です
大動脈の壁は内膜・中膜・外膜の三層構造で、内膜と外膜は結合組織からなり、中膜は平滑筋(筋肉)からなります。大動脈解離は、内膜に小さな亀裂(裂け目)が入りそこから中膜に向けて血液が流れ込み大動脈の壁が裂ける病気です(下の図)。
内膜の亀裂は胸部大動脈に生じることが多く、解離の範囲は胸部大動脈にとどまることもありますが、多くは腹部大動脈まで及び足の動脈まで裂けることもあります。本来の血管腔である真腔に加えて、新たに解離によって偽腔が生じ二腔状態となります。偽腔の中の血液は固まることは少なく、下流で真腔への流入口(亀裂)ができて偽腔内の血液はずっと流れ続けることが多いです。
大動脈解離は、急性心筋梗塞とともに中高年の突然死の原因として重要です。男性に多く、40歳以上にみられ男女とも70代での発生が最多で、冬季に多い傾向があります。主な原因は、永年続いた高血圧による動脈壁の劣化と考えられています。頻度は少ないですが重要な原因として、マルファン症候群などの遺伝性の結合組織異常があります。
大動脈解離は、何の前触れもなく突然の激痛で発症します。痛みの場所は大動脈が裂ける部位にほぼ一致しており、胸や背中の痛みが多いです。大動脈の解離が進むにつれて、肩から背中さらに腹部へと痛みが移動することもあります。発症直後は、2/3以上の患者さんで血圧が上昇しています。激痛で血圧が上がり、血圧が上がると解離が進むということにならないように、診断を進めながら痛みと血圧をコントロールすることが重要です。
診断にはCT検査が必須です
CT 検査は患者さんの体の負担が少なく、緊急検査として短時間で実施できます。単純CTに加えて、造影剤を使って行う造影CTが重要です。大動脈解離の部位や拡がり、内膜の亀裂の位置、偽腔の血流の状態(閉塞の有無)がわかります。真腔と偽腔を見分けるポイントは、①真腔は狭小化し偽腔は大きく拡大していることが多い、②偽腔は真腔より遅れて造影される、③偽腔には血栓が付着していることがある(壁在血栓がある)などです。さらにCT 検査では、大動脈破裂、心タンポナーデ、重要分枝の閉塞などの合併症についても重要な情報が得られます。
aのCT写真は、偽腔が閉塞していない偽腔開存型のB型大動脈解離の縦断面で、真腔(左側)と偽腔(右側)が造影されています。b〜eは別の患者さんのCT写真です。偽腔(右側の腔)の造影範囲は、造影直後の早期相(c)よりも後期相(e)で拡がっています。後期相で造影されない部分は、壁在血栓と思われます。b・dは、それぞれの横断面です。
出典:日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部学会/日本血管外科学会合同ガイドライン 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年改訂版)
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左は造影CTの水平横断面、中央は前後方向の縦断面、右は左右方向の縦断面です。矢印が指しているのは、弓部大動脈にある内膜の亀裂です。矢印は、偽腔から真腔に向いています。
出典:日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部学会/日本血管外科学会合同ガイドライン 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年改訂版)
左は造影CTの水平横断面、中央は前後方向の縦断面、右は左右方向の縦断面です。矢印が指しているのは、弓部大動脈にある内膜の亀裂です。矢印は、偽腔から真腔に向いています。
出典:日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部学会/日本血管外科学会合同ガイドライン 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年改訂版)
A型解離とB型解離があります
心臓に近い上行大動脈に解離があるか無いかで、予後(疾病の医学的な見通し)に大きな差があり治療方針も大きく異なります。上行大動脈に解離がある場合をA型といい、無い場合をB型といいます(スタンフォード分類)。
A型解離では、死亡につながる重篤な合併症が多くみられます(下の図)。心臓近くの大動脈の根元まで解離が及んだ結果、冠動脈が塞がると急性心筋梗塞が、大動脈弁が閉じなくなると大動脈弁閉鎖不全症が発生します。解離が心臓を包む心のう(心囊)に破れると、心のう腔に溜まった血液が心臓を圧迫して血圧が下がりショック状態になります(心タンポナーデ)。さらに、頭に向かう(脳を栄養する)動脈が塞がると脳梗塞を生じます。これらの危険な合併症が起こる前に外科的治療を行わなければ、死亡率は1時間毎に1~2%ずつ上昇し、48時間以内の死亡率は約50%に昇るという報告もあります。検査の結果、A型解離と診断されたら直ちに緊急手術を行う必要があります。
急性心筋梗塞でも胸痛があります。通常の急性心筋梗塞だと思って対応していたら、実はA型解離に合併した急性心筋梗塞だったという事態があり得ます。急性心筋梗塞や脳梗塞の診断の際には、A型解離を常に頭の片隅に置いておく必要があります。
本記事中の全てのイラストは、済生会福岡総合病院 心臓血管外科 森重徳継先生の御好意により掲載させていただいています。
→社会福祉法人 恩賜財団 済生会 [大動脈解離]ページはこちら