福岡県太宰府市の丸山病院(内科・消化器内科・循環器内科・リハビリテーション科)

2024-10-11

PADの診断

PADを疑ったら、足の動脈の脈拍を触診します

PADのため足への血流が減ると、足の動脈の脈拍が弱まります。PADを疑ったら、まず足の動脈の脈拍を触れます。触れるのは、足の甲にある足背動脈、足首の後ろ内側にある後頚骨動脈、膝の裏側にある膝窩動脈、足の付け根の大腿動脈です。
まず足背動脈と後脛骨動脈の脈拍を触れ、触れない場合は膝窩動脈、さらに大腿動脈と順次中枢側の動脈を触れます。左右の動脈に人差し指と中指を押し当てて、脈拍を触れるか拍動の強さに左右差がないかを確認します。例えば、膝窩動脈は触れないが大腿動脈は触れる場合は、足の付け根から膝までの動脈のどこかが詰まっていると考えられます。

足の脈拍の触診

足の動脈の触診の様子です(筆者撮影)。人差し指と中指で左右の動脈を同時に触れて、拍動の強さに差がないかを確認します。

  • 足背動脈:第1趾(親指)と第2趾の間の足の甲で触れることが多いですが、この患者さんではやや後方の脛骨寄りで触れました。
  • 後脛骨動脈:くるぶしの内側後ろで触れます。
  • 膝窩動脈:患者さんに足の力を抜いてもらい、膝を抱えるようにして触れます。触れにくい時は、利き手を膝の裏側にあて両手で膝を抱え込むようにして触れます。
  • 大腿動脈:足の付け根のやや内側で触れます。

スクリーニング検査では、足関節上腕血圧比(ABI)が有用です

PADのスクリーニング検査としてよく行われているのは、足関節上腕血圧比(ABI:Ankle Brachial Indexの略称、足関節血圧/上腕血圧)の測定です。ABIの測定は、簡単に行える有用な検査です。左右の二の腕(上腕)と足首の4ヶ所にカフを巻いて、自動血圧計でそれらの血圧を同時に測ります。腕の血圧より足の血圧の方が高いので、PADのない正常な人のABIは1.0〜1.4です。
もし、足の動脈に狭窄や閉塞があると、足の血圧は下がりABIも低下します。ABIが0.9以下の場合は、PADと診断します。0.91〜0.99の場合は境界域とされ、運動負荷(1分間歩行やつま先立ちなど)を行った後にABIが低下しないかをチェックします。ABIが0.9以下の場合は、PAD以外の動脈硬化性疾患も進行している可能性が高いので、冠動脈(心臓の動脈)疾患や脳動脈疾患などのスクリーニング検査を行う方が良いと思います。

スクリーニング検査イメージ

足関節上腕血圧比(ABI)の測定では、左右の上腕と足首の4ヶ所の血圧を自動血圧計で同時に測ります。
例えば、上腕血圧 右:140/82・左:137/76、足関節血圧 右:93/62・左:150/80mmHgである場合。右側のABIは、93÷140=0.66。左側のABIは、150÷140=1.07です。

CT・MRIが有用で、血管エコー検査も活用されています

足の動脈を映し出す画像診断として、以前は、動脈内に挿入したカテーテル(柔らかい細い管)から造影剤を注入しながらレントゲン撮影をする血管造影検査が主流でした。血管造影検査では、細い動脈もきれいに映し出され動脈の様子を詳しく観察できるので、治療方針を決める際には必須の検査です。しかし、入院が必要で体の負担が大きいことや合併症などの難点があります。また、造影剤は腎臓から体外に排泄されるので、腎臓が悪い場合は造影剤の使用量を減らす必要があります。腎障害が高度の場合は、造影剤が使えないので検査が行えません。

最近では血管造影検査に代わって、CT・MRI・超音波検査が行われています。造影CTは、肘(通常は右肘)の静脈から造影剤を注射しながらCT撮影を行います。血管造影検査と同様に、治療方針の決定には欠かせない検査です。足の付け根から足先まで広範囲の動脈を同時に映し出すことができ、体の負担は軽く短時間で行えます。膝より上の動脈は血管造影に劣らないクオリティーで映し出されますが、膝より下の細い動脈はよく見えないことがあります。腎機能障害がある場合の造影剤の制約は、血管造影検査と同様です。

造影CT

左の写真は三次元に再合成された足の動脈の造影CT画像で、腹部大動脈から足先までの動脈が写っています。
右の写真は、左のLevel a・b・c・dに対応する横断面画像で、それぞれ腹部大動脈・外腸骨動脈・大腿動脈・膝窩動脈レベルに相当します。
出典: American Journal of Roentgenology 2017; 17: 1127-1133

造影MRIでも、造影CTと同等の動脈の画像が得られます。さらに、画質は少し劣りますが、造影剤なしでも動脈を画像化できます。MRIの造影剤も腎臓が悪いと使えないので、造影剤なしで動脈を映し出すことができるのは大助かりです。
放射線被曝がないという安全面の利点や、石灰化の影響を受けないという長所もあります。動脈硬化が強い場合は、動脈壁の石灰化(カルシウムの沈着)を伴うことがあります。CT検査では、石灰化があるとハレーションを起こしてその周辺が見えにくくなりますが、MRIではそのようなことがありません。

造影MRI比較

画像は横にスクロールします。

足の動脈のMRI三次元画像で、左は造影MRI、右は造影剤なしの画像です。左右の浅大腿動脈は閉塞しており、膝下の動脈へは深大腿動脈からの側副血流が流れています。造影剤なしの画像も、造影MRIに近いクオリティです。
出典:Circulation 2013; 128: 2241-50

エコー(超音波)検査は患者さんの体の負担も小さく、くり返し行える簡便な検査です。断層法にドプラ法を併用して、血管径・狭窄度・プラークの性状・石灰化の有無などが評価できます。しかし、足の動脈の全体像を把握することが難しいので、CTやMRIを併用する必要があります。また検査の信頼度が、検査を行う人の技量に左右されるという難点もあります。

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