福岡県太宰府市の丸山病院(内科・消化器内科・循環器内科・リハビリテーション科)

2023-10-16

<サイドメモ>二次性僧帽弁閉鎖不全症の外科的治療(マイトラクリップ®︎)

こちらの記事は、『心臓弁膜症>心臓弁膜症の治療』の補足記事です。

僧帽弁閉鎖不全症(MR)には、一次性(器質性)と二次性(機能性)があります。一次性MRは、弁自体の異常が原因で起こるMRです。一次性MRの最も多い原因は加齢に伴う弁の変性で、その外科的手術は弁形成術が主流です。
一方、僧帽弁自体には異常がなく、左心室や左心房の拡大に伴って生じるのが二次性MRです。左心室・左心房の拡大の主な原因は、心筋梗塞・心筋症(心臓の筋肉の病気)や心房細動などが原因で起こる心不全です。心不全が重症化して左心室と左心房が拡大すると、僧帽弁の外周(弁輪部)が拡大して僧帽弁が閉じなくなり二次性MRが発生します。MR全体の7〜8割は、二次性といわれています。

手術が必要なのは、どんな二次性MR?

二次性MRは心不全が重症化した結果として起こるので、心不全の内科的治療を最大限に行っても心不全がコントロールできない場合に、心不全の治療手段の一つとしてMRの外科的治療を考えます。
二次性MRに対してよく行われている手術は弁輪形成術で、小さめのリング(人工弁輪)を用いて僧帽弁の外周部を縫い縮めて補強します。僧帽弁自体には問題がないので弁輪部を縫い縮めることでMRは改善しますが、MRの再発率が高いのが問題です。そこで弁輪形成術を行う際に、前後の乳頭筋を糸で引き寄せる手術(乳頭筋接合術)や、乳頭筋に糸をかけて左心房側に引き上げる手術(乳頭筋吊り上げ術)などの特殊な手術を追加することもあります。これらの手術は、左心室の拡大に伴って左心室側(下方)に引っ張られた僧帽弁を左心房側(上方)に引き戻して、弁がより閉じやすくするのが目的です。
また、僧帽弁を残したまま人工弁を取り付ける手術(両尖弁下温存(腱索温存)僧帽弁置換術)も行われています。この手術は、左心室の拡大を防いで左心室の収縮能をより温存させることを意図して考案されましたが、弁輪形成術との優劣についてはまだ結論が出ていないようです。

経皮的僧帽弁クリップ術(マイトラクリップ:MitraClip ®)

手術が妥当と判断された二次性MRであっても、その約8割が手術されないままであったという報告があります。重症心不全に伴う二次性MRの手術リスクは高いので、医師も患者さんも手術を敬遠することが多いのでしょう。
そこで、手術リスクが高い場合や、重症の肝疾患や肺疾患などのために手術が困難な場合の治療法として開発されたのが、経皮的僧帽弁接合不全修復術(経皮的僧帽弁クリップ術)です。その中でも最も普及している手術器具が、マイトラクリップ(MitraClip®)です。
二次性MRは、マイトラクリップが極めて有効です。手術リスクが高い二次性MRを対象としたマイトラクリップと薬物療法の比較試験では、マイトラクリップ群の方が生存率は高く、心不全の再発率はより低率でした。すでにヨーロッパでは、二次性MRの約7割でマイトラクリップが実施されており、治療抵抗性の心不全に伴う二次性MRの治療法として定着しています。我が国でも2018年からマイトラクリップが行えるようになり、実施施設と実施件数が増えています。
一方、一次性MRの治療は、マイトラクリップよりも外科手術の方が優れています。重症の一次性MRに対して行われたマイトラクリップと外科手術の比較試験では、生存率には差は無く、1年以内の再手術はマイトラクリップ群(20%)の方が外科手術群(2%)よりも高率でした。やはり、一次性MRは外科手術で治療すべきです。

マイトラクリップ(MitraClip®)のイメージ

マイトラクリップ(MitraClip®)のイメージです。カテーテルを足の付け根の静脈から右心房まで進めた後、心房中隔を貫通させて先端にクリップが付いた治療器具(黄色の矢印)を左心房まで進めたところです。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス

マイトラクリップ イメージ

左上段はマイトラクリップ(Mi traClip®)先端部の外観、左中段はクリップを僧帽弁前尖と後尖の接合部に合せたところです。左下段は前尖と後尖をクリップで綴じ合わせたところで、右図はそれを左心房から眺めたところです。治療終了後は、クリップだけが僧帽弁に残ります。

出典:左図は、インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラスより
右図は、アボットメディカル社提供

二次性MR手術のスケッチ

1981年にイタリアで考案された二次性MR手術のスケッチです。マイトラクリップのヒントになったこの手術は、僧帽弁前尖と後尖の真ん中同士を糸で縫い合わせるというシンプルな方法ですが、手術成績は思いのほか良好です。しかし、人工心肺装置を用い心臓を止めて開心術を行う必要があります。

出典:European Journal of Cardio-thoracic Surgery  1998; 13: 240-246

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