福岡県太宰府市の丸山病院(内科・消化器内科・循環器内科・リハビリテーション科)

2023-08-07

大動脈瘤の治療

破裂する前に、外科的治療を行います

大動脈瘤は破裂してしまうと助けることが難しくなるので、破裂する前に適切なタイミングで外科的治療を行います。大動脈瘤は、何年もかけて徐々に大きくなります。大動脈瘤が見つかったら、定期的にCT検査を行って大動脈瘤の大きさを追跡します。拡大のスピードは、瘤径(大動脈瘤の大きさ)が小さいうちは遅く大きくなると速くなるので、瘤径が大きくなるにつれて検査の間隔を1年・6ヶ月・3ヶ月と縮めます。

大動脈瘤は、大きくなるほど破裂の危険が増します。胸部大動脈瘤は瘤径が55mm以上、腹部大動脈瘤は男性では50~55mm以上・女性では45mm以上で破裂のリスクが高まります。年齢や体格、大動脈瘤の形状、拡大のスピードによって、これらの基準以下でも外科的治療を考えることがあります。胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤いずれも、半年で5mm以上の拡大は破裂のリスクが高く外科的治療を積極的に考えます。

しかし、「大動脈瘤が大きくなったので手術が必要です」と言われても、何ともないのにすぐに決心するのは難しいことです。定期検査のたびに何度か説明を聞いて、手術に同意される患者さんが多いようです。

外科的治療には、人工血管置換術とステントグラフト内挿術があります

人工血管置換術は、大動脈瘤を切り取り人工血管に取り換える手術です。50年以上前から行われている標準的な手術法で、安全性は充分に確認済みです。現在使われている人工血管は「終生もつ」と言われており、人工血管の劣化のために再手術が必要になることはまずありません。大動脈瘤を切除して人工血管を縫い付ける間は、大動脈の血流を遮断します。その間、胸部大動脈瘤の手術では、臓器への血流を維持するため人工心肺装置が必要です(腹部大動脈瘤の手術では不要)。

大動脈瘤の術前と人工血管置換術後のイメージ

画像は横にスクロールします。

胸部大動脈の各部位の大動脈瘤の術前(左)と人工血管置換術後(右)のイメージです。大動脈瘤を切り取った後、人工血管(術後の白い部分)を縫い付けています。弓部大動脈瘤には分枝付き人工血管を用います。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス

腹部大動脈瘤の術前と人工血管置換術後のイメージ

腹部大動脈瘤の術前(左)と人工血管置換術後(右)のイメージです。腹部大動脈の下方から左右の総腸骨動脈(両足と骨盤内を栄養します)にかかる大動脈瘤を切り取った後、Y字型の人工血管を縫い付けています。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス

人工血管置換術の代わりとなる治療法として、ステントグラフト内挿術(留置術)があります。ステントグラフトは、ステントというバネ状の金属に人工血管を張り付けたものです。ステントグラフトを折り畳んで直径6〜8mmのカテーテルの中に収納し、レントゲンを見ながら足の付け根の動脈から大動脈瘤まで進めて展開させます。バネの力によってステントグラフトが拡がり大動脈に固定され、大動脈瘤を内側から塞ぎます。血液はステント内を流れるので、大動脈瘤にかかる血圧が大幅に減り拡大の進行が抑えられ破裂のリスクが回避されます。

ステントグラフトは、大動脈ならどこでも留置できるわけではありません。大動脈瘤の前後にある程度の長さの正常部位がないとステントグラフトが固定できないので、上行大動脈や弓部大動脈では使いにくいです。また、胸腹部にまたがる長い下行大動脈瘤の場合は、多くの重要な分枝がステントグラフトで塞がり血流障害を起こす可能性があるので使いにくいです。

ステントグラフト内挿術は人工血管置換術に比べて、体の負担が少ないです。体の傷はステントグラフトを挿入する時に足の付け根の皮膚を3〜4cmほどメスで切開するだけで、手術時間も2〜4時間ですみ人工心肺は不要です。入院期間は、1週間から10日くらいです。近年増えている75歳以上の高齢の患者さんや、心臓や肺に余病のある患者さんに適した治療法です。

胸部下行大動脈瘤ステントグラフト内挿術イメージ

胸部下行大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術です。左図では、折り畳まれたステントグラフトを右足の付け根の動脈から大動脈瘤まで進めています。右図は、ステントグラフトを展開させて大動脈瘤を内側から塞いだところです。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術イメージ

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術です。左図は、ステントグラフトを右足の付け根の動脈から腹部大動脈瘤まで進めて展開しているところです。中央の図は、二股になったステントグラフトの一方を右総腸骨動脈に固定した後、2本目のステントグラフトを左総腸骨動脈から挿入したところです。右図は、ステントグラフト留置後です。

出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス

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