福岡県太宰府市の丸山病院(内科・消化器内科・循環器内科・リハビリテーション科)

2025-02-18

心筋症とは?

心筋症とは?

心筋症とは、「心臓の筋肉」の異常によって、心機能が進行性に低下する病気の総称です。血液を循環させるポンプとしての心臓の働きには、①血液を送り出す働き(収縮能)と、②血液を受け取る働き(拡張能)があります。心筋症では、収縮能と拡張能のどちらか一方、あるいは両方が障害されています。

心筋症で重要なのは、心室の壁が厚くなる(心肥大)、心室の内腔が拡大する(心拡大)など、心臓の形態に正常と異なる変化がみられることです。心室の壁が肥大して分厚くなると、心臓は硬くなり拡がりにくくなって拡張能が障害されます。心室の内腔が拡大するのは、収縮能が障害されて心臓の負荷が増えた結果です。

心筋症の原因が明らかなものを「二次性心筋症」といいます

心筋に直接影響を及している病気がはっきりしている心筋症を、「二次性心筋症」といいます。様々な病気が、心筋症を引き起こします。

特発性心筋症肥大型心筋症
拡張型心筋症
拘束型心筋症
不整脈原性右室心筋症
分類不能型心筋症
二次性心筋症虚血性
弁膜症性
高血圧性
炎症性心筋疾患
(心筋炎など)
内分泌性疾患
(甲状腺機能亢進症・低下症、褐色細胞腫など)
蓄積性疾患
(ファブリー病、アミロイドーシスなど)
全身性心筋疾患
(膠原病、サルコイドーシスなど)
筋ジストロフィー
神経・筋疾患
薬剤性(アドリアマイシンなど)
アルコール性
産褥性

血行動態の変化に応じて、心肥大や心拡大が起こります

血行動態とは、血流と血管壁の力学的相互作用によって、時時刻々と変化する血液の循環状態のことです。血行動態は、血圧・心拍数・血流速度などの変化に対して、恒常性を維持するように自動制御されています。しかし、自動制御できる範囲には限界があります。血行動態の恒常性が保てなくなり、それが長期化すると心臓は肥大したり拡大したりすることがあります。

高血圧症では、動脈の血管抵抗が増し血圧が上がります。増大した動脈の血管抵抗に対抗して左心室から血液を拍出するため、心筋細胞は肥大して収縮能を高めようとします。その結果、左心室の壁は分厚く肥大して、拡張能が低下します。その後も、高血圧の治療が不十分だったり未治療のままだと、心筋が障害され収縮能が低下して左心室は拡大し、最終的には心不全の原因となります(高血圧性心臓病)。

僧帽弁閉鎖不全症や大動脈弁閉鎖不全症などの逆流性心臓弁膜症では、僧帽弁や大動脈弁が閉じなくなって血液の逆流を生じます。弁の病変が進行して逆流量が増えるのに伴って、左心室は徐々に拡大して収縮能が低下します。大動脈弁狭窄症では、大動脈弁が硬く動かなくなり弁口の断面積(弁口面積)が狭くなります。弁口面積が狭くなるにつれて、左心室から大動脈へ血液を押し出す際の抵抗が増します。その結果、心筋細胞は肥大して、左心室の壁は分厚くなり拡張能が低下します。さらに進行すると、収縮能も低下します。

全身性の病気のため、収縮能が低下して心臓が拡大することがあります

膠原病(強皮症全身性エリテマトーデス(SLE)多発性筋炎・皮膚筋炎など)やサルコイドーシス筋ジストロフィーでは心筋が障害されることがあります。これらの病気は進行性なので心筋障害の進行を食い止めることは難しく、収縮能が徐々に低下して心拡大をきたします。

甲状腺機能亢進症・甲状腺機能低下症や褐色細胞腫などの内分泌疾患や、長年にわたる多量の飲酒(アルコール性心筋症)、アドリアマイシンなどの抗がん剤の使用(アドリアマイシン心筋症)でも収縮能低下と心拡大を生じることがあります。

甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの過剰および不足が心筋症の原因です。褐色細胞腫は、カテコールアミンの過剰が心筋症の原因です。甲状腺機能亢進症および同低下症では治療で甲状腺機能が正常化すると、褐色細胞腫では手術で腫瘍が取り除かれてカテコールアミン過剰状態が解消されると、収縮能と心拡大は徐々に改善し多くは正常に戻ります。アルコール性心筋症も、禁酒により心機能は改善します。しかし、アドリアマイシン心筋症では、アドリアマイシンの総使用量が一定の値を越えると、心筋障害は元に戻りません。

心筋に異常物質が沈着して、心臓が肥大することがあります

ファブリー病やアミロイドーシスでは、異常物質が心筋に蓄積して心肥大をきたし拡張能が障害されます。
ファブリー病は、全身の細胞内にあるライソゾーム(不要な蛋白や脂質・糖質を分解する働きがある細胞内小器官)のα-ガラクトシダーゼAという酵素が生まれつき少ないことが原因です。男性だけに起こるX染色体劣性遺伝とされていましたが、女性にも起こることがわかりX染色体性遺伝と考えられます。α-ガラクトシダーゼAが少ないと、不要なスフィンゴ糖脂質が分解されず細胞内に蓄積し、様々な臓器で障害を起こします。心臓の障害は中年以降に多く、著明な心肥大をきたし、不整脈や弁膜症を生じることもあります。

アミロイドーシスは、様々な蛋白からできる不溶性の線維の塊(アミロイド)が、臓器の間質に沈着して機能障害を起こす病気です。心臓では、心室の壁が厚くなって拡張能が低下し、進行すると収縮能も落ちて治療が難しい心不全となります。心房細動を併発することが多く、房室ブロックや心室頻拍を認めることもあります。心臓にアミロイドが沈着するのは、骨髄腫やM蛋白血症の免疫グロブリン由来のALアミロイドーシスと、甲状腺ホルモン結合蛋白であるトランスサイレチン由来のATTRアミロイドーシスです。ATTRアミロイドーシスには、「野生型」と「変異型(遺伝性)」があります。野生型ATTRアミロイドーシスは高齢者とくに男性で多く認められ、最近注目を集めています。

ファブリー病には、酵素補充療法があります。不足している酵素α-ガラクトシダーゼAを点滴で補い、臓器に蓄積している糖脂質を分解して病気の進行を抑えます。ALアミロイドーシスでは、原因である骨髄腫やM蛋白血症を薬物治療と自家末梢血幹細胞移植(血液の元となる患者さん自身の細胞を移植)を併用して治療します。ATTRアミロイドーシスでは、不安定な異常トランスサイレチン蛋白を安定化させ、アミロイドができにくくする治療薬(タファミジス)があります。ファブリー病もアミロイドーシスも、なるべく初期の段階で治療が開始できるように、適切に診断することが肝要です。

原因が不明なものを「特発性心筋症」といいます

一方、心肥大や心拡大があり心機能が障害されているのに、その原因が明らかでない心筋症を「特発性心筋症」といいます。特発性心筋症には、5つの病型があります。①心室が肥大して拡張能が障害された肥大型心筋症、②収縮能が障害されて心室の内腔が拡大した拡張型心筋症、③心肥大も心拡大もないのに拡張能が障害された拘束型心筋症、④不整脈原性右室心筋症、⑤これら4つの病型に当てはまらない「分類不能の心筋症」です。特発性心筋症の代表格は、肥大型心筋症(HCM: Hypertrophic Cardio Myopathyの略称)と拡張型心筋症(DCM:Dilated CardioMyopathyの略称)です。

心筋症の5つの病型

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特発性心筋症には、肥大型心筋症、拡張型心筋症、拘束型心筋症、不整脈原性右室心筋症、分類不能の心筋症の5つの病型があります。

参考資料:日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)

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